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ドイツ軍被服の考察

19. Luftwaffen-Sturm-Division

​第19空軍突撃師団

更新情報

  1. ​ 2023年1月31日(火) 掲載開始

  2.  2023年2月 2日(木) 上衣の項に、襟留め布タブの写真を追加

目次
 
​​1.第19空軍突撃師団の被服概説
​2.空軍熱帯服~支給規定とその内容
3.主な被服の紹介
​ ・略帽(
Fliegermütze
 ・上衣(Rock)
 ・長袖シャツ(
Hemd. mit. Lange Ärmel
​ ・襲撃ズボン
(Überfallhose)

 

1.第19空軍突撃師団の被服概説​

​今回のイベントにあたり、ドイツ軍側の被服を特定できる証憑となるような、部隊名にはっきりと言及した補給関係の一次資料や兵士の写真はまだ見つかっていません。しかし、様々な資料を探索・考察した結果、以下の3つの理由から、当時の第19空軍突撃師団(以下19(L)と記載)の被服は空軍の熱帯服であった可能性が高いと考えています


・1944年6月5日から7日にかけて、19(L)は駐屯地であるベルギーから急遽イタリア戦線に移動後、ピサ近郊に駐屯。その際に熱帯地域向けの被服に換装したと考えられる。所属する第14軍の報告書の補給に言及する文章に19(L)が記述されているのが6月後半であることから、最初の駐屯地であるピサで交付された被服は、空軍熱帯服であったとするのが妥当であること


・ネット上で公開されている情報の、1944年イタリアの空軍対戦車部隊の写真に写る対戦車砲PAK97/38は、当時イタリアに展開する空軍部隊の中で唯一19(L)に配備された兵器であり、整列する兵下士官および将校ら全員が空軍の熱帯服を着用していること。

・第14軍の報告書一次資料に、当時の現地について「熱帯特有の非常に暑い気温である」との記述があること。


 

1943年12月1日時点の兵器定数管理表

 

2.空軍熱帯服 ~支給規定とその内容~

恒常的に暑い気候の地域に展開するドイツ空軍の全階級の人員に対して、熱帯地域向け被服が初めて規定されたのは1941年4月25日、公布(L.V.BL)は5月5日でした。この規定では実に一人当たり30品目にわたる支給されることとなっています。

そして、約1年後の1942年2月14日に一度目、さらに約1年後の1943年6月4日に二度目の規定の改定の公布があり、特に二度目の改定ではその支給品目が大幅に減らされることになりました。

​枢軸国のヨーロッパにおける戦況に暗雲が立ち込めてきたこの時期に、熱帯地域を補完する被服として支給できる内容に影響があったことは明らかなようです。

そこで1943年に改定された後の内容を以下ご紹介します。

1943年5月?日付 空軍規定1113号 (1943年6月4日公布)

 

 熱帯地域被服        

  1. Schirmmütze(制帽/通称ヘルマンマイヤー帽) 数量1

  2. Rock(上衣) 数量1                          

  3. Lange Hose、Überfalihose(長ズボンもしくは襲撃ズボン) 数量1

  4. Kurze Hose(半ズボン) 数量1

  5. Hemd.mit.lange.Armel(長袖シャツ)   数量2

  6. Hemd.mit.kruze.Armel(半袖シャツ)    数量2

  7. Unterzicohemd(肌着) 数量3

  8. Kurze Unterhosen(短いズボン下)  数量3

  9. Binder (ネクタイ) 数量2

  10. Leibbinde(腹巻き) 数量2

  11. Schnürschuhe(編上靴)  数量2

上記の規定で特筆すべきは、1943年の規定にSchirmmütze(制帽/通称ヘルマンマイヤー帽)が記載されていることです。これは空軍特有の熱帯地域用制帽ですが、HGG事務局では空軍ゾルトブッフ(Soldbuch)の熱帯被服品目に記載を確認できていません。むしろ、1941年に規定されたFliegermütze(空軍略帽)が、1944年にゾルトブッフに記載され支給されているのを確認しています。
当時の写真においても実用されている大半は略帽であることから、規定と実際での何らかの乖離があったのだろうと想像できます。そのような実際の状況を確認したうえで、主な被服の紹介では略帽を取り上げます。

また、Leibbinde(腹巻き)については、現物がどのような物であったか未だわかっていません。

3.空軍熱帯服     ~主な被服の紹介~

略帽(Fliegermütze )

​熱帯向け生地で作られた1942年製の兵下士官用略帽。通常のウール製と同型のこの略帽は、おそらく熱帯地域に展開する空軍に最も広く使用されました。カーキ色の綿ツイル生地で作られており、裏地は同系色の薄い平織り生地。裏地も前面には同じく熱帯略帽用鷲帽章とコカルデ章が手縫いで縫い付けられています。(熱帯向け略帽の帽章は工場にて、全て手でまつり縫いによって取り付けられます)

​熱帯向け略帽用国家鷲章とコカルデ章。
鷲章は上部のみ翼の形に添って折りたたみ、下部の二辺はストレートに折りたたむ始末になっています。
また、コカルデ章は刺繍周りを切り取るのではなく、余裕を持たせて切り取り裏面で袋状にして縫い合わせる丁寧な始末の作りになっており、その結果厚みのあるのが特徴です。

​熱帯向け略帽用国家鷲章とコカルデ章の裏面。
​その折りたたみ方や、縫い付け方の始末がよく解ります。

Tobben社製略帽。鷲章上部はストレートに折りたたまれています。このスタイルの鷲章は、August Schellenburg社、Walter Tobben社の2社だけに見られる特徴です。また、この略帽のコカルデ章は熱帯略帽用ではなく、通常のブルーグレー色ウールの台布のものが取り付けられていますが、稀有な例です。

上衣(Rock)

​空軍の熱帯向け上衣は、デザインが空軍ウール製上衣に準じた作りとなっています。しかし、その袖口はフレンチカフスに似せて作ってあるのですが、実際は内側にボタンホールとボタンが付いたスリット構造となっています。襟は通常開けて着用しますが、閉じることもでき、閉じたときは右襟下基部に縫い込まれた布タブで、左の下襟角の裏側を固定できるようになっています(後述)。胸ポケットにはプリーツが付いていますが、腰ポケットにはありません。裏地は全面的に省略されています。

そして、すべての熱帯向け被服に当てはまることですが、基本的にこれらの被服は兵下士官から将校まですべての階級を対象にして、一つの型で設定されています。(将校の私費仕立て服を除く)

​写真の3着の未支給の上衣は、熱帯服に見られる色の微妙な違いを示しています。黄色味が強い色調からオレンジ味が強い色調まで様々な色味が見られ、これらの違いは、工場で使用されるカーキまたはカーキブラウン色の染料に生ずる違いがあったことを顕著に示しています。

オランダ・アムステルダムのHollandia-Fabieken, kattenburg&Co.製の未支給の上衣。ベルリンのMariendorfer社がオランダの工場に下請けに出したこの上衣は、暑い綿ツイルで作られています。非常に高品質な作りで、前立、ポケット、肩章に使われるボタンは茶色に塗装されています。また、左下襟先裏、袖口、包帯ポケットに使用されるのは茶色に塗装された金属製ディッシュボタンです。
​ここには画像を掲載していませんが、同様に茶色に塗装された前立て、ポケット、肩章のボタンは簡単に取り外しができるような構造です。また、使用されるベルトフック2個も同様に茶色に塗装されています。

※ 写真の肩章は航空兵科・降下猟兵科の熱帯用であり、今回の参考にはなりません。
 

​裏面の一部。左胸裏に押されたサイズや工場を表すスタンプ、ポケットフラップ部分の裏打ち、包帯ポケットなど。

別の上衣の右胸に取り付けられる国家鷲章(Hoheitsabzeichen)。上衣専用の物で、工場出荷段階で取り付けられています。
この個体は比較的暗めのカーキブラウン色の綿ツイル台布に、オフホワイトの糸で刺繍されていますが、刺繍糸については薄いグレーも存在します。台布は平織りよりも、上衣に合わせてツイル織りが多かったようです。

また、胸の国家鷲章はこのように、非常に密度の濃いジグザグステッチのミシン縫で取り付けられ、その位置は、鍵十字の下端がボタンホールにかかるくらいが一般的です。

​さらに別の上衣から、袖口のスリット部分のデティール。この服には茶色のガラスボタンが使用されています。外側からは袖がフレンチカフスに見えるような仕様は、袖口生地を二重にして補強するためと思われますが、空軍独自の見た目のこだわりとする説もあるようです。

この項の冒頭で説明した襟の閉じ方を示します。

この写真では分かりづらいですが、右襟裏の基部に取り付けられた布タブ先端にボタンホールがあり、左の下襟角の裏に取り付けられたボタンで固定し、下襟が動かないようにできます。

この襟留め構造は、ウール製の空軍ヴァッフェンロック(Waffenrock)と同じ構造です。

ウール製ヴァッフェンロックの襟留構造解説図を付記します。

長袖シャツ(Hemd. mit. Lange Ärmel)

​空軍の熱帯用シャツは、長袖と半袖の両方が生産されました。規定ではそれぞれ2着ずつ支給されることとなっています。その着用については、その時の気候や状況により部隊単位で指揮官が指定したと思われます。また、長袖シャツにおいては、前立て部分がボタンフロントとプルオーバーの2種類が確認されています。生地は目の詰まった綿の平織りから比較的軽い織りまで様々です。

ここでは画像を示すことができませんが、肩章ボタンの「取り付け方」は独特の仕様になっており、陸軍・空軍の熱帯用シャツ共通の特徴です。肩章ボタンの取付方法がこの方法でないシャツは、一説によると正式な物ではない(外国製や他国軍のシャツ)とのことです。

​熱帯用長袖シャツ(ボタンフロント)。良質な目の詰まった綿平織り生地で作られています。また、ボタンは茶色に塗られた金属皿ボタンが使用されています。工場出荷段階から取り付けられている右胸の国家鷲章は、上衣用とは異なり三角形のシャツ専用ものが使用されます。

 

 

※ 以降の写真の肩章は航空兵科・降下猟兵科の熱帯用肩章であり、今回のHGGの参考にはなりません。
 

​プルオーバーの長袖シャツに襲撃ズボン(Überfallhose)を履いた状態。


 

​シャツ用国家鷲章。平織り生地の台布に刺繍され、三角に切り抜き、三辺を折りたたんで整形し、ストレートミシンで縫い付けられます。刺繍糸はオフホワイトとグレーの二種が確認されていますが、グレーは視認性低下効果を考えた初期の仕様とする説もあります。台布は比較的濃いカーキブラウンから薄目のカーキまで多様です。


 

​シャツ用国家章の裏面。折りたたみ方がよく解ります。
 

​シャツ用国家章の取り付け位置は、ポケット上端のステッチ部分に、国家章の下端が少し被さるくらいです。左記の例は、ポケット上端に被さる部分が比較的多い場合と言えます。
 

​このシャツのボタンは金属製の皿型です。この写真では鉄色に見えますが、本来は茶色で塗装されており、このシャツのボタンは経年変化で色が退色したようです。

 

襲撃ズボン(Überfallhose)

襲撃ズボン(Überfallhose)については、ゾルトブッフでも確認されている空軍の熱帯被服です。Überfallhoseが正式名称であることは確かですが、今回は日本語に直訳した名称を使用します。

写真は未支給の襲撃ズボンです。厚手の綿ツイル生地で、バックルは鉄製、ボタンは黄褐色のガラス製が付属しいています。

このズボンの特徴は、何といってもそのシルエットであり、尻から膝にかけて膨らみ、膝から足首にかけて絞られていきますが、その膨らみが非常に大きいため空気をはらみ、足にまとわりつかず涼しい機能的設計になっています。

足首は調節可能なベルトで締め付けて、砂などが入らないように、また足首部分にも弛みを作って空間が維持されるようになっています。

左の太もも前面には大きな隠しボタンのポケットが付属しています。裏面の写真はありませんが、尻には左右にフラップの付いたポケットがあり、同様に隠しボタンになっています。

 

※このズボンにはレギンスを組み合わせることはありません。​

 

襲撃ズボンの前立て内側の構造。ポケットの裏地やウエスト部分の裏地はオフホワイトのツイル生地が張られています。
ウエスト部分には、共生地の隠しベルトが付属しており、バックル部分で自由に締め具合を調節できるようになっています。ベルトが表に出ているのはこの部分だけで、前面の両脇からお尻の部分は全周囲が覆われています。そのため、ズボンにはベルトループは付属していません。
このズボンには前面にタックが左右に1か所ずつ入っています。


 

​別の襲撃ズボン。
​これらのズボンの前立てには左右に一か所ずつタックが取ってありますが、このタックが無いものや、HBT生地のものなど、バリエーションが確認されています。もともとHBT生地が最初に生産されたとする説もあります。

このズボンの非常にゆったりとしたシルエットを足首で絞り切るために、足首ベルト部分では前面に四本の非常に深いタックが入っていいます。一本のタックの深さは7~8センチはあると思われ、足首絞りのデティールと、非常にたっぷりとした生地使い、そして日本で言う「ボンタンズボン」のように膝上あたりで一番膨らみが大きい特徴的パターンは、複製品として再現する際のポイントとなり得るでしょう。

​熱帯被服を着用した空軍兵。
​襲撃ズボンのフラップボタンは隠しボタンになっておらず、後期型と言われる物。肩章はウール生地製と思われます。

 

​襲撃ズボンの膨らみがどれほど大きいかがよく解る一枚。

この写真では裾に行くにしたがって膨らんでいるように見えますが、実際のズボン自体のパターンは尻から膝下あたりまで急激に膨らみ、そこを頂点として裾に向かって萎んでいくシルエットとなっています。

その膨らみが非常に大きいのと、足首部分で非常に深いタックを何本も使って絞り込んでいること、そして編上短靴の履き口の上端で、ズボンの最下端が上がってくるのでこのような見え方になります。

また、加えてウエスト(Waist)から尻あたりまでは比較的身体に沿っているのも、もう一つの特徴です。

これらが相まって、一見何でもないだぶだぶのズボンのように見えますが、非常にコストと手間のかかる作りになっているのです。

​そのような理由から、既製品のレプリカでは正確な再現が非常に困難です。

​襲撃ズボンについてはまだまだ分からないことがあります。今に残る現物の素材は綿ツイルやダック生地が殆どです。しかし、稀にヘリンボーンツイル(HBT)生地のものが現存します。当時の写真を見ても、その皺の付き方や、独特な組成からくる表面感から、HBT生地であろう襲撃ズボンを確認できます。また、お腹の前面に入っている左右二つのタックが無いものも確認しています。そのようなタックの無いズボンの場合は、当然のことながら膨らみも明らかに少ないのです。

​また、おそらく熱帯ストレートズボンの供給に困難を抱えた陸軍が空軍から買い取ったのか、当時の写真では陸軍の兵士が陸軍の熱帯服の下に履いているのが散見されます。

~最後に~

​ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

​こちらの内容については、新しい情報が確認でき次第に随時内容の更新・追加をし、このページ上端の更新情報でお知らせします。

出典元
​“German Paratroops IN NORTH AFRICA”/Jhon E. Hoddgin著/A SCHIFFER MILITARY HISTORY BOOK社刊

出典元
​“UNIFORMS AND INSIGNIA OF THE LUFTWAFFE” VOLUME1/Brian.L.Davis著/ARMS AND ARMOUR社刊

出典元
​“UNIFORMS AND INSIGNIA OF THE LUFTWAFFE” VOLUME2/Brian.L.Davis著/ARMS AND ARMOUR社刊

出典元
​“DIE DEUTSCHE WEHRMACHT UNIFORMIERUNG UND AUSRÜSTUNG” 1933-1945 Band1 DAS HEER/Adolf Schlicht&John R.Angolia著/Mortorbuch 出版社刊

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